主の公現
カトリック上野教会
第一朗読:イザヤの預言(イザヤ60・1-6)
第二朗読:使徒パウロのエフェソの教会への手紙(エフェソ3・2、3b、5-6)
福音朗読:マタイによる福音(マタイ2・1-12)
ー 晴佐久神父様 説教 ー
あけまして、おめでとうございます。新しい年を神様からいただきました。当然、何かわけあってのことですし、神様が何かを期待しているということですから、この一年、その期待に応えるべく出発いたします。
私の今年の抱負は、「リスタート」だと申し上げましょう。「再出発」ですね。神父になって早30数年、随分遠くまで歩いてきたような気もしますけれども、ここらで一区切りというか、コロナでいったん初心に帰されましたから、そろそろ次のステージに向かって出発しようかと。今年はこのあと、世界、変わりますよ。スペイン風邪の時に世界が大きく変わっていったように、コロナ以降も大きく変わっていきます。思わぬ変化が続いて、激動の世界になるでしょう。混乱の中、大変なことやいやなこともたくさんあるでしょうけど、すべては神様の御手のうちにありますから、それは生みの苦しみです。人類が成長していくためのプロセス、そういう日々になろうかと思います。今年は、変化の中で変化を恐れず、再出発です。今までと同じことしてちゃ、だめってことです。変化に対応して、終わらせるものは終わらせ、改めて原点に還って、キリストの平和を共に実現するために、再出発いたします。
大みそかに、上野教会のホールで、路上で暮らしている方と一緒に紅白を見る会をやりました。去年もやりましたけど、信者の有志の方たちがおせちを持ち寄って綺麗に盛り付けてくれたんで、料亭のお正月みたいでしたよ。ほんと美味しかったですし、まあ、普段、なかなかそんな御馳走食べる機会のない方たちですから、おいしいおいしいって喜んでくれました。みんなで一緒に紅白を見て、冗談言って、笑い合って。やっぱり楽しいっていいですよね。今年も、いろんな人たちと一緒に、楽しく過ごしたい。自分一人じゃ、楽しくないですから。一人で楽しむのって、不健康ですよ。今年もいろんな人たちと出会いたいし、いろんな人と一緒に楽しみたいし、もちろん一緒に悲しむこともあるでしょうけど、ともかくいろんな人に出会って、一緒ごはんを食べたいし、そこにちらりと見えてくる神の国を、一緒に喜びたい。それ、キリスト教の原点でしょう。すべてはそこからじゃないですか?
来年、2023年を自分が迎えられるかどうかは、だれも知りません。いつかやろう、いつかできるだろうとかじゃなく、今年、やっていきたい。この一年、一体誰に出会うだろう、どんな喜びを一緒に味わえるだろうってワクワクしながら、チャレンジしていこうと。去年、一昨年はコロナ一色でそういう雰囲気じゃなかったですもんね。みんな閉じこもっちゃったし、怯えていたし、すべてが引っ込んじゃった。だけど、2022年、そろそろ神の国を新しいレベルで生きる時でしょう。先ほどのパウロの言い方だと、「秘められた神の啓示が明らかになった」(cf.エフェソ3・3b)ってことですよ。それは、すべての人にキリストの恵みが与えられているという、キリスト教の原点の福音です。キリスト以前はユダヤ教だけの話だったのが、いつでも、どこでも、どんな人でも救いにあずかるって言う、新たな段階、新約の時代に入ったんです。その原点に立ち返って、再出発。今年、キリスト者はどこにでも出かけて行って、だれにでも出会って、一緒によろこびを分かち合います。余計なことに耳を貸さず、大事なことにだけ耳を澄ませて。わかる人はもうわかってますけど、ホントに世界、変わってますよ。
そういえば、紅白もガラリと変わってましたね。「いまどき男女の歌合戦とかって、ぶっちゃけどうなの」って、急にそんな雰囲気になりましたもん。ちょっと前まではそんなこと誰も思わなかったのが、一昨年辺りからかなあ、「やっぱ、これ変だよね」って感じはじめたのって、なんか面白いね。世の中が変わっていく時ってね、そんなもんですよ。「そもそも合戦ってなによ」とかね。だって、何を争ってるんですかね。本音では誰も勝ちたいと思ってないし、どっちが勝ったってどうでもいいと思ってるんだから。男女で歌合戦って言われても。今年も氷川きよしさん、美しかったですよね。ああいうのは見ている方も、なんか楽になれて、気持ちがいい。紅白もとりあえず「カラフル」っていうのをテーマにして、赤だ白だでなく、ステージ上にカラフルな花飾ってましたけど、やっぱり、世界って変わってくんですよ。
紅白歌合戦って、始まったの70年位前かな、最初はとっても新しい企画だったんですね。戦後、男女平等とかって言われるようになったのを背景に、女性と男性が対等に戦う歌合戦ってのがとても新鮮だったし、女性の地位向上に少しは役に立ったのかも。だけど、いくらなんでも70年も経てば、やっぱり新しい時代に新しい感性が生まれてますから、そこを大切にしていかないと、文字通り「時代遅れ」になっちゃう。古いものはダメだっていってるんじゃないですよ。今もオンタイムで神様が創っているこの世界は、いつも新しいってこと。その時代、その時代に合わせて生き生きしてないと、神の業についていけなくなっちゃうってことですよ。2022年、新しい年です。すごいですよね、新しい年って。今まで一度もなかったんですよ、2022年という年は。こうしている今も、見えない世界では大きく地殻変動が起こって、毎日何かが変わってます。それを感じ取って、神様の働きに協力して、今まではこうだったからとか、これからもこうでしかないとかじゃなくて、新しいセンスで、チャレンジしていくと。
羊飼いも、博士たちも、出発したんですよ。この世界にイエス様が来られたとか言っても、わが家でのんびりこたつに入ってるところへイエス様が「どうも」って入って来てくれるわけじゃない。ちょっと寒いけど、出かけなきゃならないんです。羊飼いたちだって、ずっと焚火にあたっていたかったんでしょうけど、「よし、行こう、出発しよう」って出かけたから、イエス様に会えた。一番最初にイエス様を訪ねてきたのは、羊飼いたちでしたって、いい話ですよね。路上の方たちってことですよ。路上の人たちと仲良くしてるといいですよ、イエスさまのとこに連れてってもらえるんだから。博士たちだって、東方からってありますけど、遠くて困難な旅路ですよね。当時の旅は結構命がけですから。現にヘロデの所で、殺されかけてます。これ、間違いなく殺されてたと思いますよ、ヘロデの所に帰ったら。「私も行って拝もう」なんて、よく言うよ、ホントは「軍隊を送って殺そう」でしょ? 博士たちが「ベツレヘムのどこそこにいました」なんて報告したら、「おおそうか、よく教えてくれた、ありがとう」で、3人、首はねられます。当たり前の話ですよね。イエスのことを知ってる都合悪い人間は抹殺されるわけで、今の独裁国家とかみんなそうじゃないですか。命がけの旅路なんだけど、でも出かけたし、だからイエスに会えたし、そうして世界が変わっていく。今日は、主の公現。と言ったって、いくら公に現れてても、そこはこちらから会いに行かなくっちゃ会えません。
一昨日の大みそかに、コミックマーケットに行ってきました。御存知ですか。コミケと呼ばれている大イベントです。主に漫画の、あるいはオタク達の様々な同人誌などの即売会ですね。即売会って言ったって、これ、世界最大の同人誌即売会で、多い時は60万人とも80万人とも言われる人達が集まるんですよ。すごくないですか。東京都民の20人に一人は参加してるってことでしょ。出店する方も、だいたい3万スペースとか出してるんですね。今回99回目で年に2回ですから、50年近く続けている、もはや国民的伝統文化行事です。私は初めて参戦したんですけど、驚きを通り越して、感動しました。これだけの人たちが、自己表現のため、多様な表現に触れるため、そしてまさに表現の自由のために集まっていることに、なんか人間の本質を見る思いでした。みんな、自分たちの大好きな物、愛するキャラクター、大切な物語にとことんこだわって、それを探し求め、情報を交換し、分かち合って、大切に大切に守ってるんです。どちらかというと無口な人たちなんだけど、深いところで共感し合ってるのが伝わってくるし、愛を感じたなあ。もしかすると一番人間らしいイベントかもしれない。そんな人間たちに、会ってまいりました。
人気のある同人誌の所には、長蛇の行列ができててね。でも、すべてが整然としてるんです。会場整理とか、3000人くらいスタッフがいるんですけど、なんと全員ボランティアなんですよ。まさにこの漫画文化、オタク文化を、どれだけみんなが愛しているかを、つくづく感じました。私も50年間漫画を読んできましたけど、日本の漫画文化を支えている原動力、底力を見たような気がいたします。この人たちが自由に表現活動をできる限りは、日本は平和だろうなあって、しみじみ思いましたよ。荷物が多かったんで帰りは会場からタクシーで帰ったんですけど、運転手さんが言ってました。コミケの客が一番いい客なんですよって。みんな若いのに礼儀正しくって、何十万人集まってても問題起きたのを聞いたことないとか。「他のイベントは違うんですか」って聞いたら、「全然違いますね。スポーツイベントのお客さんは勝った負けたで騒ぐし、見本市なんかは威張ってるのが多いし。その点コミケは酔っぱらいはいないし、ちゃんとマスクしてるし、みんないいお客さんなんですよ」って。そういえば昨日のニュースでやってましたけど、コミケ会場の献血ブースに大行列ができて、献血センターの人達が参加者にとっても感謝してるそうですよ。おとといとかホントに寒かったけど、外で並んで献血してるんだから。「オタクは世界を救う」と言っていいんじゃないですか。
荷物が多かったって言うのは、実は私は出品側だったんです。「アキバダファミリア」というオタクの福音家族があって、そこに来ている漫画家のスペースの片隅で、色紙を売ってきました。朝早く7時半から行って、手続して準備して。幼子イエスが両手を開いて「あなたは幸い」って言っているという、私の手書きの色紙を100円で売りました。大勢の集まっている人たちに向かって、「あなたは幸い」って言うイエスの祝福を与えたかったんですよ。ちゃんとポスターも作ってね、そこに書いたんです。「カトリックの神父、コミケに初参戦です。本物です。(笑)ぜひ皆さんに、あなたは幸い! という祝福を祈りたくて、まいりました」とかって書いて。ちゃんとローマンカラーしてね、目立つためにストラもかけてね。これ、「本物です」って書かないと、コミケはコスプレの人達が結構多いんで、神父のコスプレだって思われちゃいますから。現に、ギリシャ正教会の人としゃべったら、自分のはコスプレだって言ってました。その方、声かけて来たんですよ、「本当の神父さんですか?」って。「本物です」って言ったら、びっくりしてました。まあ、そんなこんなで、神父には興味はあっても、色紙は全然売れませんでした。でも、いろんな人に会えて楽しかったです。「アキバダファミリア」にお誘いしたりね。やっぱりね、聖堂の中じゃあね、いくら福音とかなんとか偉そうなこと言っててもねえ。キリスト者って、人々に会いに出かけてなんぼでしょう。
2022年1月2日録音/2022年3月10日掲載 Copyright(C)2019-2022 晴佐久昌英